チラーでの追加冷却方法を選ぶポイントと冷却能力が不足する理由

『チラー便覧2』を読む

周囲設備の発熱量増加や冷却設備の能力低下が生じた場合は、冷却設備のメンテナンスや新製品への買い替えに加え、チラーを利用した強制的な追加冷却が工場の稼働率の低下を防ぐことにつながります。

今回は、既設油圧装置を例にして、追加冷却を検討する際に必要なポイントについてご紹介します。

目次

1.追加冷却方法を選ぶポイント

まずは、既設油圧装置を例に、追加冷却方法の選び方についてご紹介していきます。

既設油圧装置に追加冷却設備を加えるには、いくつかのパターンがありますので、今回は次の3つのシーンに分けてお伝えしていきます。

  • ・既設冷却設備が油圧ポンプと別系統に付帯している場合
  • ・油圧ポンプ戻り配管に設備冷却が付帯している場合
  • ・既設冷却がない場合

既設冷却設備が油圧ポンプと別系統に付帯している場合

既設冷却器を活かす場合は、新しい熱交換器を下流側に設置し、チラーユニットを接続して追加冷却します。

既設機器を上流にすることで、作動油との温度差が大きくなるため既設冷却器の熱交換量が最大となります。作業油の温度がより下がった状態になるため、チラーへの負担も軽減できる効果があります。

油圧ポンプ戻り配管に既設冷却設備が付帯している場合

油圧ポンプの戻り配管に冷却器が設置している場合も同様に、既設冷却器の下流側に新しい熱交換器を設置し、チラーユニットで追加冷却します。

油圧ポンプの場合、熱交換器の耐圧圧力以上の圧力が発生することがあり、熱交換器が破裂する可能性があることには注意が必要です。設置の際は、戻り配管中の圧力が熱交換器の耐圧圧力以下になっているか、大きな圧力変化がないかを十分に確認することが重要です。

既設冷却なしの場合

現在、冷却設備を使用していない場合は、以下の3つの方法で設置することができます。

  • ・オイルチラーを設置
  • ・冷却回路を新しく設置
  • ・油圧ポンプに熱交換器とチラーユニットを設置

オイルチラーを設置

手間が最も少ないのは、オイルチラーの設置です。汎用チラーより冷却能力は劣りますが、能力が足りるのであれば設置や施工が容易というメリットがあります。

冷却回路を新しく設置

ポンプ、熱交換器、チラーの3つを接続した冷却回路を新設する手もあります。循環ポンプは、容量と流量の適正を確認して選ぶのがポイントです。

油圧ポンプに熱交換器とチラーユニットを設置

油圧ポンプの戻り配管側に熱交換器とチラーユニットを設置する方法も効果的です。油圧ポンプから熱交換器の耐圧圧力以上の圧力が発生するので、設置の際は戻り配管内の圧力の低下や圧力変化に十分に注意しましょう。

2.冷却能力が不足する理由

ここからは、既設油圧装置を例に冷却能力が不足する理由をご紹介していきます。

例えば、周囲の気温に冷却能力が左右される空冷式冷却機器の場合、外気温の高さが要因となる能力低下が考えられます。また、周囲の原動機や熱処理炉などから発生する熱の影響を受けて、作動油の温度上昇や冷却能力の低下が起こることもあります。

冷却設備の経年劣化も要因のひとつです。経年劣化には、スケールによるクーリングタワー配管の目詰まりや、空冷ラジエーターやチラーのフィンの目詰まり、冷媒抜け、冷却循環用ポンプの劣化などが挙げられます。

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3.追加冷却能力の計算方法

最後に、追加冷却用のチラーを導入する際に必要な、不足している冷却能力の計算方法を解説します。必要な冷却能力は「熱量計算式」に加え、外気からの侵入熱などを考慮した安全率を掛けることで求めることができます。

【必要冷却能力の計算式(熱量計算式)】
Vs×Cs×γs×ΔT÷t= Q[kW]

必要な追加冷却能力の計算例

「作動油タンク内にある800Lの作動油が、1時間で30℃から60℃まで上昇する」と仮定して、その時必要になる冷却能力を計算してみます。

単位換算表および物性表をもとに、単位を換算しながら作動油の数値を熱量計算式に当てはめていくと、下記のような計算式になります。

Q[kW]=①Vs×②Cs×③γs×④ΔT÷⑤t

①.Vs(対象物の体積) 800L=0.8m³
②.Cs(対象物の比熱) 1.95kj/kg・℃
③.γs(対象物の密度) 870kg/m³
④.ΔT(対象物の温度差) 60-30=30℃
⑤.t(対象物の冷却時間) 1h=3600sec

0.8×1.95×870×30÷3600=11.3[kW]

最後に、前述の通り侵入熱などを考慮して、熱量計算式に安全率1.2(20%)を加算しましょう。安全率は、必要熱量が3.5kW以上であれば1.2~1.3、それ以下であれば1.2~1.7程度を見込むのが一般的です。保冷が不十分な場合にはより大きく計算する必要があります。

11.3×1.2=13.6[kW]

つまり、1時間で30℃から60℃まで上昇する800Lの作動油の熱負荷は推定13.6kWとなり、追加する冷却機器はこれを補完できる能力が必要だということになります。

追加冷却能力を計算する時のポイント

油圧作動油の温度上昇は、設備稼働開始直後に最大となり、時間経過とともに低下していきます。追加する冷却能力を見積もる場合には、下図の赤色の矢印が示す「温度変化大」となる立ち上げ直後の温度変化ゾーンを確認することが大切です。

4.まとめ

外気温が上がる夏場や経年劣化など、冷却不足に悩むことは決して珍しくありません。そうした時、稼働効率を下げないためには、追加冷却が必要になることもあります。

設置の際は、既設冷却設備の有無や配管の状況をよく確認し、効率性と安全性をみて最適な形になるように行ってください。

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